恋の始まりなんて、ほんの些細なこと。 ふと目をとめた横顔が、ものすごく綺麗で心に焼き付いてしまったとか。 笑ったときの目許に、「かわいい」という意外性を見つけてしまったとか。 抑揚のないしゃべり方なのに、そこにほんのりと染まる温かさを見出してしまったとか。 その些細な事柄は、それでも恋の始まりの必要十分条件を満たしていて―――ほら、この京(みやこ)に雪が降った朝にはもう、「雪が降りましたね」というそれだけのことを貴方に話したくなるほどに、そのことで頭がいっぱいになるほどに、わたしの心はふわふわとした恋色に染め上げられてしまった。 いつも朝一番に訪れる貴方を思う。 冷たい板敷きの上をひたひたと近づいてくる独特の足音と、足につけられた守り石と葉が擦れ合う微かな報せ。 神子、という今日最初にわたしが貰う貴方の声色が、少しでもわたしの心を染め上げた色と近ければいい。 真白な雪に遊びながら。 かじかむ手にほっと息を吹きかけながら。 そんな淡く甘い期待に心を躍らせる。 「―――・・・神子?」 「泰継さん―――雪が降りましたね・・・!」 Fin. |