今から思えば、星見が示していた卦は、まさにそのとおりであったのだ。 あちらの世界での最後の夜。師匠との約束。桔梗の咲く庭で師匠がうっすらと見つめていた先。 そして昨晩の星見。この世界の星々が指し示したもの。 それらは同じ―――奇跡のような必然のような―――願いと祈りが織り込まれた巡り合わせを指し示していたのだから。 その日の夕刻のこと。 (―――!!!) 淡く暮れてゆく空を一瞬切り裂くように。この世界を取り巻く気が強く歪められる気配を感じて、咄嗟に名を呼んだ。 「あかね・・・!」 守らなければ。 何かがくる。禍々しさは感じないけれど、何か大きなものの力―――そうだ。知っている。その片鱗を知っている。 それを認めた瞬間、沸き起こるのは怒り。 全身の血が沸騰するような感覚。 「あかね・・・! 龍だ・・・!」 龍の気配だ。嘗てあかねを連れ去ったあの龍か。 あかねのもとに駆け寄りその身を抱き込んで、呪を唱える。 どこまで効くか。持ちこたえるか。この部屋ごと、この建物ごとと、二重に結界を張って身構える。次の瞬間、張ったばかりの結界が低く唸るように揺れ共鳴した。 (―――っ) 伝わる衝撃のその次に備えながら、結界のほころびを探る。 大丈夫だ。問題ない。 一瞬の出来事。何処か、この近くを起点にして大きな波紋が起きたことを知る。時空が歪み、裂け、この世界の気が大きく揺らいだのだ。 けれど、 「やすあきさん・・・ちがう・・・」 「あかね?」 「・・・龍だけど。わたしの龍じゃない。もうあの白龍じゃない・・と思う」 「なん・・・だと?」 「ちがう龍が・・・誰かを連れていって・・・連れて・・・きた」 どういうことだ。 あのムカつく龍の神が何匹もいてたまるか。 しかし、腕の中であかねが言うのだ。違うけど同じなのだ、と。 同じであって違う龍が、その龍の神子を呼び、また神子を連れて戻った、と。 巡りうつろうことで龍は少しずつ変じ、あのときの龍にはもう2度と会えない、会えるはずもないのだと。 そうして―――、 「―――行こう、泰明さん」 「ちょっと待て。何故そうなるんだ」 「場所、わかりますか? 龍の神様が連れてきた子に会いに行きましょう。行かないと」 「あかね。人の話を聞け」 「大丈夫です」 「―――・・・?」 「いけすかない龍だったら、泰明さんがやっつけてくれるから。ぜったい大丈夫」 「なんだそれは。勝手を言うな」 「なによ。守ってくれないの?」 「―――っ」 まったく。 あかねと出会ってから、頭の痛くなることばかりだ。 「―――知れたこと。私しかお前を守れない!」 そう言うと、あかねが笑った。この腕の中で、うれしそうに。 あどけなく、いとおしい笑顔で。 (まったく―――ひとの気も知らないで) いつもそうだ。 その笑顔を向けられれば、眩暈がするほどに愛しさが募るのだから。 「事に当たって、術を存分に揮わせてもらう。よいな?」 そもそもあかねの許可なく術を揮い結界をいくつも張ったのだが、それはそれ、だ。 「はい! もちろん許可します!」 「よし」 だいたい同じ龍だろうが違う龍だろうが、神子を選び連れ去る龍だろう。 あかねを連れ去った嘗ての龍と同類だ。神なぞ碌なものではない。 もしも、「いけすかない龍」であれば、猶更だ。 ―――あかねがいいと言ったのだ。ちょうどいい。 「―――ゆくぞ、あかね」 回し蹴りでもお見舞いしてやらねば気が済まない。 この身に与えられた力を存分に揮わせてもらおう。 ** ** ** うちの泰明殿は、龍神ぜったい殺すマン。リミッター外して戦闘モード。 泰明も泰継も武闘派陰陽師なところがいい。身体能力がやっぱりふつうじゃないもの。 泰明はわりと好戦的。勘の良さと力でねじ伏せる系。一撃必殺のひと。 泰継のほうは相手の特性に合せた省エネな戦い方する系。戦い方が巧者な感じ。 |