―――花梨がくれた季節だ。 長い間二つの季節を行ったりきたりしていた泰継は、四季があることは知識として知っていたけれど、こんなに自己主張の激しい強い日差しを知らなかった。カラカラに大地を干してしまいそうなのに木々は逞しく、厚く成長した葉は濃く深くその日差しを受け止める。初夏のまだ若々しい淡い緑と、紅く染まってゆく晩秋の葉の間には、こんなにも、深い緑色が息づいていたのか。 泰継は、傍らに座る花梨の頬にそっと触れる。 「花梨」 「はい?」 「―――感謝する」 「え? やだな、どうしたんですか? お礼を言うのは私のほうですよ。お掃除やってもらっちゃって」 泰継に頬を触れられたまま、その頬を紅くして困ったように花梨が笑った。 (花梨はわかっていない) このように季節を告げるものを見て心が浮き立つなど、花梨が教えてくれたものなのだ。花梨の傍にいるから人ならざる自分が、目に映るものの美しさを知ることができるというのに………。はにかんで笑う花梨に愛しさが募り、思わず彼女を抱き寄せた。 「///」 腕の中で、花梨は身を硬くしてひどく気を乱す。 大胆にも異界から人(のようなもの)を一人攫ってきておきながら、花梨は泰継に触れられることに未だ慣れていない。相変わらずの花梨のリアクションに、泰継はつい噴出してしまう。 「ひどっ。泰継さん、からかったんですか?」 「さあ、どうだろうな」 「もうっ!」 笑いを堪えている泰継の肩が揺れて、花梨の気分を逆撫でしたようだった。腕の中で彼女はぷっと頬を膨らませて泰継から目を逸らしてしまった。 (まったく…花梨は何もわかっていない) 少し怒った表情も花梨はひどく可愛らしいと泰継は思う。その心の動きは、京にいた仲間の一人によると「花梨にベタぼれ」で「病だ!」ということらしいのだが…。 (―――まぁ、病でも何でもかまわないのだが) 花梨を得たことで罹る病ならば、別に癒えなくともよいと思うのだ。 そっぽを向いてしまった花梨の顎に手を充ててこちらを向かせると、泰継は、そのまま強引に唇を重ねてしまった。 「………!!」 花梨はますます身を竦ませたけれど、泰継は構わず舌を彼女の口内に割り込ませる。 「〜〜〜〜!!」 舌を入れられて息もできなくなり鼓動が早くなる花梨を、泰継は腕の中に閉じ込めたまま放さない。 「………っふ……」 力が抜けてしまった花梨を強く抱きしめて、ゆっくりと唇を離すと、口元から吐息が漏れた。そのまま首筋に唇を這わせて、彼女の弱点である耳の後ろに軽く口吻ける。 「ひぁっ………! や、や、や、泰継さん?!」 突然のことに目を白黒させてパニックに陥っている花梨を見て、満足気に双色の瞳を細めてニヤリと笑い―――泰継は、今度はあっさりと花梨を解放した。 「………花梨、スイカとやらを頂くぞ」 「なっ!なんで、あんなこと、急に!」 首筋を押さえながら縁台のもう一端にざっと飛びのき、真っ赤になって怒る花梨を尻目に、泰継はスタスタと部屋に戻ってしまう。 「泰継さんてばっ!」 スイカを片手に、泰継が首を傾げて花梨を見遣る。 「………お前が愛しいからだ」 何を今更、とでも言いたげに、彼はあっさりと先ほどの行為を正当化した。 「花梨、早くこっちに来い」 「……………………………」 機嫌良くスイカを頬張る泰継と、日差しのある縁台の一端でがっくりと脱力している花梨の間を、緩やかな風が通り抜けていった。 風鈴がチリンと鳴り、花梨の足元では耕太郎がピスピスと鼻を鳴らす。 まだ花梨の動悸は治まらない。 強い日差しと、湿気を含んだ重たい空気。 暗緑をゆらす風、風鈴の音。 そして、いつになくはしゃいでいる様子の恋人。 この場にお祖母ちゃんが居なくてよかったとか、お向かいの松子さん(お祖母ちゃんの友達)に見られたんじゃないかとか、ちょっと嬉しかったかも………とか、なんであのひとは甘いものは苦手なのに果物なら大丈夫なんだろうとか、激しい口吻けがショックで花梨の頭の中はグルグルとまとまらない。 ただ―――夏が来たのだと、身をもってそれを知った。 この町にだけでなく、寡黙で落ち着いている(はずの!)彼にも、等しく夏はやって来たのだと。 (………お日様と泰継さんの馬鹿…) そう思いながら、縁台から花梨が恨めしそうに太陽を見上げる。 「花梨、薄着は仕方がないがそこに居ると身体の線やら下着が透けて見えるぞ。早くこっちに戻れ」 「………(怒)」 (しかも、あのひと、なんか言ってることがスケベだし) 「それに、夏バテか。近頃蒸し暑いので食が細くなっているのではないのか?」 「?」 「乳の嵩が減ってしまったように思うのだが」 「………(怒)(怒)」 (否、ぜったいスケベだし…!) ………っていうか、私も馬鹿 恋人のことを、ついつい誤解しがちな自分のこともなんだか恨めしくなって、花梨はがっくりと項垂れた。 Fin. ** ** ** ムッツリ継さんと巨乳花梨を推奨します!(威張ることではないですね。) |