貴 方 が 寝 て る 間 に (3)




 「しかし、花梨」
 「―――はい」
 「不細工だな」
 泰継さんの腕から引っ張り出してくれた泰明さんが、まず言ったのが、これ(泰明さんもヒドイ)。すかさず、あかねちゃんが泰明さんの後頭部に鉄拳を飛ばすと、今度は、こういう状態を不細工と言うのだとあかねが以前言ったのではないか!?と泰明さんは涙目で文句をいい、さらにその涙目になった泰明さんを押しのけて、あかねちゃんが私の顔を覗き込みました。
 「困ったね。すっかり瞼が赤くなってるよ………」
 そう…昼間からボロボロ泣きすぎてしまって瞼の腫れがひどく、泰明さんの言うとおり、明らかに誰がどうみても不細工…です。こんな不細工な子に、あんな台詞を吐いた泰継さんはやっぱり病気だと思います。
 「ここに泊まっちゃう?」
 確かに、これで帰ったら家族に申し開きができません。でも………。
 「裏工作なら泰明さんにさせるし。花梨ちゃんが泊まるなら、私も泊まってくよ」
 あかねちゃんが、そう言った途端。
 「花梨。泊れ。泊まっていくべきだ…!」
 ものすごい迫力で、泰明さんに迫られました。
 花梨の姿を写した式を好きなだけ出してやろうと真顔で泰明さんは言い出すし、そんなの一人出せば十分でしょうと、あかねちゃんのデコピンがパチンっと決まる。
 この二人は、よく分らないけど息がピッタリで面白いです。
 ふふふ。と笑っていたら、泰明さんが急にお兄さんの顔をして。
 「継が目を覚ましたときに花梨が傍に居たほうがよいだろうから。泊まってくれるとありがたい」
 「―――」
 京で一人ぼっちだった泰継さんは、今はもう、一人ぼっちじゃなくなっていて。彼がこうやって思われていることが、どうしようもなく嬉しくて温かくて、また涙が出そうになりました。
 「―――はい」
 そう返事をしたら、泰明さんは泰継さんとよく似た控えめな笑顔をして、私の頭にぽんと掌を載せ、さらには、私の髪をぐしゃぐしゃっとかき回し。
 「―――お前、北山にいそうだな」
 「は?」
 「継が言っていたのだ。髪をこうすると、花梨は北山に棲む動物のようだと」
 それって。
 前に、泰継さんのとこに泊まったときに………。
 お布団の中で。
 私の髪をぐしゃぐしゃってして。
 泰継さんが、言ってた………。

 「☆@%&# !!」
 (あなたたち兄弟は、一体、何の話をしているんですか!?)

 「先ほどから、赤くなったり青くなったり。あかねもそうだが、花梨も落ち着きの無い娘だな」

◇ ◇

 泰継さんがダウンして眠っている間に、分かったことは。
 泰明さん愛用の歯磨き粉がライ○ンこどもハミガキ(メロン味)で、ネズミーランドであかねちゃんが買ってきたパジャマ(ピンク)を着て寝るっていう、いろいろありえない生態と(当然、泰明さんの世界はあかねちゃんを中心にぐるんぐるん回っています)。
 お互いの危機を察知したり、なんだか余計なことまでしゃべっているらしい、安倍兄弟の仲の良さとか(あとで絶対、泰継さんを蹴っ飛ばしてやります)。
 あかねちゃんは、頼りになって優しくて、ちょっとヒドイってことを再認識したり…。

 (今日は一日、心臓に悪いことの連続でした………)

 「あの………………あかねちゃん」
 「花梨ちゃんは、ちょっと黙ってて」
 「―――はい」

 今―――あかねちゃんと泰明さんが、揉めています(いつもの喧嘩です)。
 あかねちゃんが「花梨ちゃんと此処に寝るし~」と言って枕とお布団引きずってリビングに来たら、泰明さんがあからさまにブーたれました(呆れるほど素直です)。
 「女の子どうしで、おしゃべりしたいの! 泰明さんは邪魔だからあっち行って」
 「!!」

 (あ。泰明さん……泣く…? あ、あれ?)

 「―――そんなことしてもダメよ」
 「―――」

 ピンクの寝巻き着た子が、髪に三つ編み作りました(早業っ)。
 どうやら、女の子の仲間入りを宣言しているようです(無言で)。

 美人のあかねちゃんと、三つ編みしたやっぱり美人の泰明さんが(しつこいですがピンクの寝巻きです)睨み合ったまま…事態は一向に動きません。

 もう………むちゃくちゃです。


Fin.


 5000HITお礼 Jan.30, 2006 鳶丸(@巻耳蜻蛉)より愛を込めて
 Jan.30,2005~Nov.18,2006までフリー配布でした。お持ち帰りくださった皆様、有難うございました…!