青空プリン / ヴェランダわんかっぷ



 「滅っしてやりたい・・・!!」
 「・・・・・・・・・・・・・」

 朝っぱらから泰明は不機嫌の極みである。
 ご多分に漏れずあかね絡みのことであり、泰継にはお手上げである。
 泰継は黙々と家事をこなしながら、泰明の不機嫌につきあってやっている。

◇ ◇

 朝からこんな調子で不機嫌を隠さずリビングのソファにごろりと横になっているだけなのだが、泰継が時折、「この皿運んでくれ」とか、「これ畳んだから仕舞ってこい(洗濯物)」とか、「お前のところのシーツと布団カバー、枕カバーをはずしてこい」とか声をかけると、案外素直に従って動いてくれる泰明である。で、自室には籠らずに、都度ソファに戻ってはごろんとしている。泰継が立ち働いている姿をなんとなく視界に入れながら。
 そんな様子なので、泰継のほうも家事と聞き役に徹して過ごしている。といっても双方無口なので、たいした会話をしているわけではないのだが。

 「明日には帰ってくるのだろう? そもそも黒龍の娘やら他の女友達と出かけたのだから」

 そう―――あかねは今朝から“女子会”で旅に出てしまったのだ。
 なにやら「美味しいごはんと素敵な洋館と温泉がわたしたちを待っているの♪」なぞと言いおいて、うきうきと。
 大学の仲の良い女子らとともに4人で。

 「――――わたしは、“女子会”というものをこの世から滅っしてやりたい・・・!!」
 「・・・・・・・・・・・・・」

 ぐわぁぁっっと大きなクッションに突っ伏して嘆く泰明に、泰継のほうは言葉もない(色々な意味で)。
 いつも“女子会”が、あかねを連れ去ってしまうのだ。泰明にしてみれば。まあ、泰明にとっては、泊りがけで居なくなるのだと昨晩突然知らされたことも大問題なのだろう。おそらくは。
 あかねが不意に目の届かないところへ行ってしまうことが何より怖ろしいらしく、あかねのことが心配で仕方がない様子で、泰明は苛立ちを募らせる。
 泰継は、立ち入ったことまでは聞いていないけれど、あかねが龍を召喚したときの事情と関係しているらしい。あかねの気がしばしば不安定に揺れて体調を崩しやすいこと、そしてその振れ幅が大きく傍から見ていても危なっかしいことも。
 ちなみに、「式神つけたら許さないから!」と昨晩のうちに釘を刺されている。さすが泰明の神子である。抜かりない。「女の子みんなで温泉にいくの、温泉! 式神とかありえないからね・・・!!!」と、泰明は大変キツク申し渡されていた。
 とはいえ、あかねにとっても急に持ち上がった旅の企画であったらしく、「急にごめんね、ちょっと女の子どうしで行かねばならぬ旅なのよ。みんなで行こうってなって。調べたら素敵なところがお安く予約できちゃったので、そのまま勢いで行ってきます♪」などと言っていたから、きっと4人集まってかしましく話さねばならない事案が唐突に起こったのだろう―――と、そんなふうに事のあらましを察している泰継である。
 高校生の花梨も、しばしば“女子会”という名のもとに、急に帰りが遅くなったり休日に出払ってしまったりすることがある。事情は似たようなことなのだろう。あかねは大学生だから泊りがけになったというだけで。

 (・・・―――)
 洗濯機のブザー音が鳴ったので、泰継はすっと立ち上がり泰明に声をかける。
「外に干すので手を貸せ。お前のところの掛け布団も干すので持ってこい」
 返事はせず渋々といった態で、しかし、やはり素直にソファから身を起こし泰明が自室に入っていく。
 昨晩泰明が、式神をよこすなと釘を刺されていたのと同じように、泰継のほうも、あかねから言い渡されていることがある。「明日は絶対お部屋を開けてお布団干してくださいね。大きいお洗濯物も! 苔盆栽を増やし過ぎるのダメですからね!」と。―――有体に言えば、翌日の晴天を見越して住まいの掃除洗濯を遂行せよと、そして、“不貞腐れている泰明の面倒もみつつ”、ということなのであろう。
 家事まわりのことは式神を出せば済むことといえばそうなのだが、以前よりあかねから、「こっちの世界では、家電、使えるようになっておくと、花梨ちゃんとの生活で絶対役に立ちますよ・・・」と圧の強い笑顔で言われているので、そういうものかと大人しく従っている泰継である。お蔭で泰継は、だいたいの白物家電は使いこなせてきている。

 「これらを干したら一段落だ―――・・・泰明、そろそろ諦めて機嫌を直せ」

◇ ◇

 よく晴れて空が高い。
 夏はとうに過ぎた。朝夕の気温はぐっと低くなり日が沈む時刻もだいぶ早くなった―――とはいえ、風はもう夏の湿気を含んではおらず、この天気ならば洗濯物もよく乾くだろう。
 ここのヴェランダ(ルーフバルコニーになっている)いっぱいに干したシーツやら布団カバーやらが、通り過ぎてゆく風にときおり翻る。

 「―――あかねは・・・お前の目の届かぬところでは無茶はせぬと思うぞ・・・」
 「!」

 二人ともヴェランダに適当に腰を下ろして、青空のもと風に吹かれながら、泰明のほうは例によってプリンを食べている。ちなみに、いま2つ目である。
 昼はどうする?と泰継が尋ねたら、泰明は、プリン、と即答だった。
 そのように言われれば、泰継のほうも昼ごはんをまともに作るのも面倒になって、買いおいていた豆源の花豆とカップ酒(日本酒)をここに持ってきた。泰明のヤケ酒ならぬ、ヤケ“プリン”につきあっているつもりである、泰継のほうが日本酒で。
 カップ酒のカップは、「柄がすっごく可愛い・・・!」とかで、あかねがいくつも買い込んできたものだ。パンダ柄やら金魚柄やら、ガラスカップの表面に様々に絵柄がついている。あかね本人はこれを飲む気はまったく無く、まことに勝手なことにカップだけ欲しいらしい。「中身は継さんよろしく!」ということだったので、良い機会である。あかねにも協力してやっている。

 「あかねが無茶をするのは、お前が助けに入れるときだけであるように見受けられる。違うか? これは推測なのだが・・・お前が居ないところへあかねが遠出するのは、実際は、これが初めてなのではないか?」
 「高校の修学旅行―――」
 「それは半ば強制的なものなのだろう。数に入れるな。今まであかねが、“自ら進んで”、“お前と離れて”、友人たちとこのような遠出をしたことは?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・ない」

 ―――やはり、か。

 けれど、それを口には出さず、泰継は徐に片方の手を伸べる。
 隣で膝を抱えて座り込んでいる泰明の頭に掌をポンと載せて、そのまま髪をわしゃわしゃとかき回す。

 「大丈夫だ。案ずるな。」

 泰継がここまで言えば、聡い泰明はよくわかっているはずだ。
 拗ねた横顔のままだが、髪をわしゃわしゃとされるがまま―――泰明は大人しくしている。
 あかねは、きっと出かけても問題ないとそう踏んだので出かけた。泰明が傍に居なければ不安なのであれば、出かけなかった。
 多分そういうことなのだ。

 「随分体調がよいのだろう―――よい兆し、ではないか?」
 「・・・そう・・なのだろうか・・・」
 「あかねは、お前のことが何より大切だから。お前との約定を破ることはせぬよ」
 「―――約定?」
 「あかねは、お前にしか守れない―――お前にしか守らせないのだと、そう言っていただろう? お前にそう言わしめるのだから、それはあかねの誓でもある。お前の目の届かぬところで、あかねは、無茶はせぬ」
 「・・・・・・」
 「以前よりもずっと体調がよいので、思い切って遠出したくなったのだろ、今回は。」

 よかったな。とそう言って、横で膝を抱えて座り込んでいる泰明をふと見遣ると、泰明は少し泣きそうな顔をしており―――けれども、泰継と目が合うと、“継の年の功が。いささか癪なことだ”などと。なんとも幼い憎まれ口をたたいてから、ふいっと目を逸らしてしまった。

◇ ◇

 幼さの残る「兄」に対して、泰継はそれ以上何も言わず、塩気のほどよい花豆をかじりつつ、カップ酒を傾ける。
 並んでただ座っている二人の目の前を、ついっ―――と、蜻蛉(とんぼ)が飛んでゆく。季節がら、アキアカネであろう。

 ただ花梨のそばに在れればよいと渡ってきたこちらの世界。
 しかし、思いがけず世話するものが増えたというこの巡り合わせの可笑しさよ。
 泰継が、こちらに来て初めて会うこととなった泰明とその神子。
 泰継にとって、この二人の在り方は不可思議で騒々しくて温かく、すこしばかり心許ない。彼らは互いに想い合っているのは明らかなのに、未だにどこか互いに片恋のままのようで。ふとした折に泰明もあかねもそれぞれが不安な表情を見せるのだ。
 そして泰継が長く長く思い続けた先代「泰明」の実像の、なんと優しく幼気(いたいけ)なことか。その能力(ちから)は強く、泰継にとっては遠く及ばぬものであることには変わりない。けれど、それを御するには泰明はあまりにも素直で優しく危なっかしい。泰明の神子あかねもその神気は清浄で凛と鋭い。それは強い神気だ。それでいてひどく不安定で儚く、やはり傍から見ていて危なっかしい。
 この危なっかしい二人は何の衒(てら)いもなく、そして惜しみなく、その優しさを向けてくれるものだから、近くに在れば彼らのことを泰継とて放ってもおけぬ。
 だから、ついつい世話を焼いてしまうのだ。

 「泰継よ」
 「ん?」

 先ほどまで拗ねた様子であった泰明がアキアカネを目で追いながら―――不意に、泰継のほうに振り向いた。そうして、

 「お前の神子はここのところ、こちらへは―――」
 「泰明、皆まで言うな」
 そう制した泰継と、とっさに口を噤んだ泰明の間をしばしの沈黙が流れ。
 「・・・・・・・・・・なるほど。テストとやらか」
 「・・・・・・・・・・」

 ここ数日、努めて考えぬようにしてきたことを泰明に気付かれて泰継は黙り込む。
 そのまま、手に持っていたカップ酒をあおり盛大に溜息をついた。
 泰継の様子を見て、泰明のほうは可笑しそうに声をたてて笑い出した。

 「なんだ、継のほうとてヤケ酒する理由があったのではないか」
 「言うな。言の葉に載せれば余計に身に染みる」
 「継は―――・・・自分がしんどい時ほどそれを言わぬ。ずっと、そうだ」
 「―――・・・」
 「どうせ、こちらに来る前からそうだったのだろ?」
 「・・・・・・・・・知らぬ」

 先ほどまで半泣きであったくせに、泰明は時折こんなふうに「兄」のような眼差しを向けくる。こういうとき、泰継の心はさざ波がたつように落ち着かなくなった。泰明の眼差しに重なるように、決まって遠い日のことが思い出されるから。
 泰継の師吉平とその弟吉昌とが健在であったころの安倍の家のことを。
 その頃安倍の家には師の息子が五人、吉昌のほうの息子が一人―――と、安倍宗家の後継候補たり得る者が六人も居た。大方は吉平のところの長子が跡を継ぐ流れであったが、安倍家のような特殊技能をもって生業とする家にとって、同世代の人材を多く抱えていることは、その能力の維持に大切なことであった。彼らの中には既に妻帯している者もいたし、また陰陽寮へ出仕して中堅どころとして腕を振るう者もいた。
 泰継がもらった器は、どうしてだか人の子の十五歳くらいの姿であった。
 そのため泰継は、それら安倍家の息子たちの年の離れた末弟のような扱いで養われることとなった。
 師が彼らに泰継のことをどのように説明したのかは、よく知らない。
 けれど彼らは泰継の存在に戸惑いながらも、それぞれの距離から―――やはり「兄」として接してくれていたのだと思う。
 共に過ごしながらも、やがて時間に取り残されてゆくばかりとなった泰継のことを、それぞれに案じてくれながら。

 「で、継の神子がここに来られないのはいつまでだ?」
 「あと3日だ。あと3日―――わたしは、神子がくれたこの淋しさとともに生きねばならぬ」
 「継、お前もう酔ってるな?」
 「そのつもりで呑んでいるんだが。」
 「・・・・ほどほどにしておけよ。あとが面倒だ。」
 「わたしは兄上ほど面倒ではない。」
 「こういうときだけ“兄上”言うな。」

 憮然とした表情の泰継に対して、泰明のほうはまた愉快そうに笑いをかみしめている。テスト期間では致し方ないな、などと呟きながら。
 泰明の姿は、師の父晴明の若いころにどこか似ているのだと聞いたことがある。当然のことながら、師もその子どもらも皆どこかで晴明の面差しを受け継いでいたはずだ。
 だからだろう。泰明の何気ない仕草や表情には、安倍家で共に過ごした彼らの面影が確かに鏤められていた。その欠片を見つけるたびに遠い日の記憶が呼び覚まされ、泰継のほうは少しばかり居心地が悪くなってしまうのだ。泰明には、まったくもって与り知らぬことであろうが。自分の勝手な感傷だ―――泰継は、そう自嘲ぎみに溜息をつく。

 「―――なぁ、泰継よ。」
 「今度はどうした?」
 「お前に言うておくことがあるんだ。」
 「・・・・なんだ、改まって。」
 「ずっと言いたかったことだ。わたしなどが言ってよいかわからなかった。が、たった今、決心がついた。」
 「―――兄として?」
 「兄として。」
 「あいわかった。聞こう。しかしこのように酔うたままでもかわまわんのか?」
 「よい。半分は戯言だ」
 「それにしては、本気のようだが」
 「当然だ。半分は本気ぞ」

 幼い「兄」の言葉に苦笑し、泰継のほうは居ずまいただしてやる。
 そうだ。
 こちらに来てからずっとそうしてきた。
 泰明が「兄」として振舞いたいとき、泰継は必ず「弟」としてそれを受け取ってきた。
 それがごく当たり前のこととして。
 人の姿をもらってから過ごした年月は関係ない。
 泰明ははじめから、そしてこれからも。
 泰継にとっては、同じ出自をもつ「兄」―――唯一無二の能力(ちから)を与えられた、泰継には決して敵わぬ「兄」なのだ。

 「お前の過ごした九十年の一因は、わたしにあるのだと思うている。それなのに、わたしはお前の九十年を知らぬ。どれほど罪深いことか。それがずっと心苦しく、言えずにきた。だが、知らぬままでも、言わねばならんと思うので言うぞ。」
 「―――・・・」
 「お前は、捨てていい。」
 「―――何、を?」
 「お前が九十年抱えてきたものを。お前は大切な者の手を取った。大切なものを選び、お前の虚(うろ)を満たすものを手に入れた。だから・・・」
 「―――・・・」
 「だからもう・・・手に余るものは、捨てていい。」
 「泰明・・・・」
 「何一つ欠けぬままその記憶を抱えてゆくには・・・九十年は重かろう。どれほどの人の生き死に触れた? どれほど人の醜さと悲しみに触れた? どれほど―――傷を負うた? 人々の幸いとて―――お前一人が抱えてゆくには、ときに重すぎよう。」

 遠い昔、今際の際(いまわのきわ)に師は言ってくれた。
 “一条の光をつかみとれ”と。
 それに出会ったとき、躊躇うな、と。
 そのために今は全てを受け止めよ、と。
 けれど―――光をつかまえた先のことは何も言わぬまま黄泉(よみ)へと渡ってしまった。

 「もう、いいんだ、泰継よ。」
 「―――・・・」
 「こちらに旅立つときにわたしは師匠と約束した。名と器を得たお前に会うたら、兄としてその幸いを祈り言祝いでやることを。お前に会えた時わたしは嬉しかった。師匠の願いを叶えてやれる。だからずっと考えてきた。お前に何と言うてやればよいのか、年端もゆかぬ未熟なわたしが長く時を過ごしたお前に・・・何を言ってやれるのか。それで、思った。花梨が言わぬことを言うてやろう、と。お前の神子は、お前に何かを捨てよとは、決して言わぬだろう。きっと言えぬし、思いつきもせぬだろう。」
 「そう・・・であろう・・・な。」
 「あの者は、お前のことをその長かった旅路ごと慕っておるからな。何も聞かず何も知らぬまま、それでも、お前のことを深く想っている。故に、わたしが言うのだ。」
 「――――・・・」
 「いいか泰継よ、未熟な兄の戯言をよぉく聞け。お前は、愛しいものだけつれてゆけ。お前はこの先のお前にとって大切なものだけを抱えてゆけばよい。要らないものは捨ててよい。そうして、さっさと幸せになってしまえ。」

 昼下がり、アキアカネが泳ぐ秋風は曼殊沙華の野を通ってきた風だ。
 あの花びらの朱は、人々の願いを載せ天からの祝福も載せて風を生む。

 ああ―――そうか。

 陰陽師になるべくして作られた者になら、すぐにわかる。
 泰明がくれた言葉は、強い呪(まじな)いなのだ。
 泰継が愛しいものに出会う百年も前に、安倍晴明という稀代の陰陽師が幾重にも仕掛けた強い願い、強い呪い。
 遠い日に、この人外のものを慈しみ見守ってくれた安倍の家の人々と。
 九十年の長い旅路と。
 この地で出会うことになった、泰明と。
 それらに紡がれて完成する、強い言祝ぎ。

 「まったく―――相変わらず、お前の能力(ちから)は格が違う。憎らしいほどに強い呪(しゅ)だ。」
 「当然だ。このわたしがお前のために全力で言葉を選んだのだから。」

 さわやかな秋風が吹く青空の下。
 白い洗濯物に囲まれながら、とりとめもなく。
 青空プリンとヴェランダわんかっぷを供に、複雑な間柄の「兄」と「弟」の時間が緩やかに過ぎていった。

Fin.

 ※2022年10月25日初掲。大幅に加筆修正して2023年01月22日に再掲。
 本編第5章の『ペルセウス流星群』というお話の少し後の頃の彼ら。安倍兄弟の敵は女子会と神子の学校の定期テストです。
 泰明には晴明様が居た一方で、泰継はどうだったろうと思います。封印を解かれ十五歳の姿で人の世に顕れた彼には安倍の家で慈しまれた温かく優しい記憶があり、それだけに、優しかった人々が一人二人と消えていく経験が辛く苦しかったのではないかと考えています。花梨さんに出会ったときその辛さ苦しさは自覚しておらず、人から化け物と罵られても、当然のことと受け流していました。自分には「心」がない、というのは、彼自身の自己防衛のあらわれで、「辛いこともなく、ただ、一切は過ぎてゆくだけだ」と、そのように心に蓋をして過ごしてきたんだろうと察せられました。このあたりの幸福と不幸の自覚のなさが、かえって、彼が抱える悲しみの深さを思わせます。
 このお話は、そういう泰継へ泰明が贈る、泰明と晴明様との約束のお話。それと同時に、なんだか凸凹な泰明とあかねを傍から見守ってきた泰継が、二人の間の約束事を当の泰明にしっかり贈ってやる話。  本編も番外編も、「君に贈る約束」というシリーズは、すべてが、誰かを想って誰かと誰かの間で交わされた約束のお話です。