傍らで眠る貴方の滑らかな頬、伏せられたままの長い睫毛。 私は、息を潜めて、貴方の寝顔を見つめる。 こんなに近くに居てその温かさを知っているのに、それでも畏怖を覚えてしまうほど、矢張り貴方は綺麗です。 傍らで眠る貴方の滑らかな頬、伏せられたままの長い睫毛。 その首筋に口吻けをしただけでは起きないだろうから、そぉっと身を起こして貴方の耳朶を軽く噛んでみる。 案の定―――眉を顰めてからゆっくりと瞼が開いて琥珀色の瞳に朝日が溶け、二、三度瞬きをして、漸く事態を呑み込んだ様子で口元が仄かに綻ぶ。 「あかね………?」 起抜けの少し掠れた声に思わず微笑い、その耳元で、おはよう、と小さく告げると、貴方は肩を竦ませてから気だるそうに、ゆっくりと腕を挙げて。 そのしなやかな腕を見上げるか見上げないかの、ほんの一瞬の内に。 ―――私の視界は反転してしまう。 神様が意志を持ってこの世に遣わしたかのような、そんな美しさを備えた貴方が、こんなふうに―――欲をはらんだ眼差しで私を見下ろし。 合わされた掌から、からめた指先から、貴方の熱が伝わる。 瞼に、首筋に、鎖骨に、吐息と一緒に柔らな唇が触れて思わず身を竦ませれば、少し意地悪そうに目を細めた貴方に、耳元で囁かれる。 「あかねの起こし方が、よくないからだ」 身体の芯に熱が生じるような、そんな囁き方で、随分勝手なことを言うから抗議しようとすれば、実にあっけなく唇を奪われその言葉は貴方に飲み込まれてしまう。 恋愛とは―――美しきことを夢みて、汚らわしき業をするものだとか。 美しい貴方がくれた昨晩の快楽は確かに汚らわしき業によるもので、其処に美しきことを夢見た私は、間違いなく貴方に恋をしている。 今朝再び、貴方が為そうとする汚らわしき業に、貴方もまた、私に美しき夢をみてくれればいいと、ぼんやりとそう思いながら。 触れる指先に、舌に、そして時折ぶつかる眼差しにさえ、意識を絡め取られて。 はしたない私は。 貴方が伝える熱に溶け、貴方がくれる快楽に、再び沈められてゆく。 Fin. 「恋とは。」「美しき事を夢みて、穢き業(きたなきわざ/けがらわしきわざ)をするものぞ」 太宰治の『東京八景』より。 とても素敵なキリリクをいただけて、カッとなって書いてしまった物(Nov. 2005)を、ちょろりとリヴァイズしました(April, 2009)。アホみたいですが、ほんと、その一言を入れようか入れまいか悩んだんだ!という大変微妙な修正であります。 |