シ ェ パ ー ド の 朝




 初めて貴方に会ったとき思ったのです―――昔飼っていたシェパードに、似ていると。
 時折。
 私のことを、この上も無く優しい眼差しで見つめてくれる貴方は
 私の
 私だけの―――蒼いシェパード。


 私は、異界の京を救う神子様で。
 貴方は、私を守る強い強い従者で。
 貴方はいつも、私の数歩後ろを歩く。

 視界の端っこに、私の姿を捉えているはずなのに
 振り返っても、目なんか合わせてくれないし
 お屋敷で貴方の名を呼べば、
 頼んでもいないのに庭先で片膝をついて、伏せのポーズをしていたり。

 本当に貴方は。
 やけに躾の行き届いた、蒼いシェパード。

 だから。
 触れるのは、いつも私から。
 貴方の蒼い髪を勝手に触りながら、
 シェパードなら立耳よね、と、髪で耳の形を作ってみたり。
 鼻の頭は乾いていないかしら、と、ぷにっと鼻をつまんでみたり。
 躾の行き届いたシェパードの表情が崩れるのが、楽しくて。

 困ったような照れたような―――そんな表情をした後、シェパードは眉間に皺を寄せて、
 「神子殿、おいたが過ぎます」と。
そう言いながら、やっと、私のことを真っ直ぐ見つめてくれる。この上もなく、優しい眼差しで。
 優しくて聡明な、その瞳の色に吸い込まれるように
 私は手を伸べてシェパードの頬に触れ
 鼻の頭に、軽くキスをする。

 とたん。
 その場で硬直し、上ずった声で、み、神子殿。と言い。
 やがて大きな溜息を一つ吐いてから。
 急にその腕を伸ばして、私を抱き寄せる。
 抱き寄せて、きつく腕に閉じ込めた私の耳元で。

 ―――わたくしに、また襲われたいのですか?

 と。
 朝から、そんなことを囁く貴方は
 やっぱり
 私の。
 私だけの―――蒼いシェパード。




Fin.




 君たち藤姫様のお屋敷の庭先で、朝から何やってんの?な一場面を。
 また襲われたいんですね。あかねさんは。

 Nov.16, 2005

 Nov.16,2005~Nov.18,2006まで旧サイトにてフリー配布してました。お持ち帰りくださった皆様、有難うございました…!