雨 の 日 の お 買 い 物



 ( あのね・・・・・・・・・そこでその全開の笑顔は、どうかと思うの )

◇ ◇


 雨の休日は暇なもの。
 お洗濯はできないし、窓を全開にしてお掃除するなんてこともできない。
 お出かけするのも、少し億劫。

 そうなると当然、おうちの中で、雨の音を聴きながらまったり過ごすことになって。

 泰継さんの住むマンションに朝から遊びに来たものの、その後だんだん雨足が強くなってきてしまって、すっかりお出かけする気力を失くしてしまったのは、わたし。
 わたしがお出かけする気力がないのを知ってて無理に出かけようなんて言う泰継さんじゃないし、「花梨がいる場所に一緒にいられればそれで幸せだ」なんて。飽きることなく熱烈な台詞をさらりと言ってくれちゃうのもいつものこと。
 何度か繰り返しているような気もするこんな雨の休日。

 泰継さんは静かに本を読んでいたり、こちらに来てから気に入って集めている苔盆栽のお手入れをしたり(さすがに趣味が渋いです!)、わたしのためにほろ甘いカフェオレを淹れてくれたり。

 でも。
 わたしは、というと―――・・・暇・・・だったりするのです。

 泰継さんのように、苔盆栽たちとお話することはできないし。
 雨のせいで、彼女らしくお掃除やお洗濯をやってあげることもできないし。
 わたしがお腹減ったなぁなんて表情をすれば、泰継さんに目ざとく気づかれて―――・・・ふわふわ卵のオムライスとか振舞われてしまったんですけど、さっき!
 しかも、ウサギにカットしたリンゴつき!

 どうしてそんなことが出来るんですか?っていう項目の隠し技を泰継さんは持っていて、彼氏であるというのに、わたしにとってほんとうに謎の多いひとです。(逆に、なんでこんなことが出来ないんですか???っていう可笑しいところもありますけれど)

 ともかくも、とろけるあつあつオムライスは美味しくて、可愛いリンゴもしゃきしゃきと美味しくて。
 わたしはすっかり満腹で。
 泰継さんが黙ってさっさとお皿洗いまでしてしまったので、もう、ほんとうにやることがなく。

 暇。

 暇なので、彼氏の前で開くのもどうかと思われる通販雑誌を思わず手にしてしまったのは、ある意味仕方のないこと、、、だったなぁと思うのです!

 そう、いつもの雨の休日と少し違っていたのは、今日持ってきたカバンにピーチ・●ョンが入れっぱなしだったということ。
 先週、学校のお友達と放課後寄り道して、あれもかわいいこれもかわいい、ちょっとこれはオトナっぽすぎじゃない? っていうか、サイズとかちゃんとわかってんの?? 花梨最近サイズかわったんじゃな~い??とか、そんなことをマクドナルドでワイワイ言いながら見ていた下着通販の雑誌。

 女の子はお買い物が大好きなのは当然。
 雑誌を開けば、かわいい下着&部屋着が満載で、ついつい見入ってしまったのです―――泰継さんの存在も忘れて。
 レース使いが可愛いのにオトナっぽかったり、ワンポイントのリボンの色で印象が違ったり。
 サイズはあとで測るとして、好きな型だけでも今日決めちゃおうかな、なんて。

 お値段のことも気にしつつ、真剣に、それはもう真剣に雑誌のページをめくっているときでした。

 「待った」

 めくろうとしたページが、後ろからすっと伸びてきた手に止められたのです。
 ソファの上に陣取って雑誌に夢中のわたしの背後に、いつのまにかコーヒー片手の泰継さんが立っていて―――。

 「花梨は、これだ」

 トントン、と綺麗な指先が指し示したものは、白いレースが基調の【メッシュ×レースで狙うしとやか大人フェミニン】な一品。
 白い下着が映える健康的に少し日焼けしたナイスバディ美女がキメポーズで立っている。

 「花梨は、こういうものが似合う」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 「? どうした」
 「ど、どうしたもこうしたも!」

 雑誌を持ったまま固まって、でも慌ててぐいっと、背後に立つ泰継さんのほうに首を巡らせたわたしを、泰継さんはちょっと不思議そうに見詰め。

 「決めかねている様子だったが」

 そう、それはそうなんですけど!
 わたしに、しとやか大人フェミニンを狙えと!? じゃ、なくって!  なんていうか、ほら!

 「こ、こういう雑誌、カレシに見られるの恥ずかしいっていうか!」
 「恥ずかしい? わからぬな―――・・・まぁ、ここに載っているのがすべて花梨だとしたら、いささか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 な、なんですか、その妙な間!
 ほんのり頬をあからめてるし!
 よからぬことを全力で妄想しましたねっっっていうか、妄想してますねっ!?

 「いや、まて花梨」
 「な、なんですか」

 どうにも憤慨して文句を言おうとしたものの、泰継さんが急に真顔になって雑誌に手を伸ばし、パラパラとページを勝手にめくりはじめて

 「花梨、こちらのものでも、わたしはやぶさかではないぞ」
 「!#$%&!??」

 再び、キレイな指がトントンと示したのは、薄いピンク色の水玉が可愛いベビードールのセット。
 透ける生地にオトナっぽい黒いレースが胸元と裾にあしらわれている、それはもうレベルの高い一品。
 なんとコンセプトは、【水玉の小悪魔ヴェールはあどけない誘惑】―――あ、あどけない誘惑っていうか、あざとい誘惑ですよ、このすけすけ感は!

 「ちょっ、これ、すけすけですけど!」
 「問題ない」

 泰継さんのいつもの台詞。
 ただ違うのは、小悪魔ヴェールな下着を指し示しながら、にっこり爽やかに全開の笑顔だということ。

 「や、・・・」
 「?」
 「やすつぐさんのえっち!!!!」


◇ ◇

 あの全開の笑顔は、ほんと、どうかと思いましたよ?

 でもね。
 わたしもどうかと思う。
 結局、あの雨の日、しとやか大人フェミニンなブラも、あどけない誘惑なベビードールもばっちり買ってしまったんだもの。

 泰継さんには、まだ内緒ですけれど!


Fin.



泰継さんは甲斐甲斐しく世話焼きでムッツリであることを希望。
・・・いろいろすみません。

ピーチ・●ョンには是非とも内緒の方向でお願いします。


ここまで読んでくださってありがとうございました・・・!  June 4, 2009 トンビ@「雨の午後、君と」