―――兄(あに)様は、小さい頃から兄様でしたの。 その、少し困ったような幼い物言いに微笑い、 ―――深苑くんは今だって紫姫だけのお兄さんだよ、 って返したら、小さな両手で口元を覆うようにして。それから大きな瞳から涙がぽろぽろ零れた。 幼いお姫様は、もっともっと幼い頃にお父様とお母様をいっぺんに亡くしていて。 双子で同い年の、だけど「兄様」であるやっぱり幼い男の子と助け合って生きてきた。 ずっと同じ方向を見据えていると思ってきた「兄様」は、ある日このお邸から姿を消してしまった。 ここでぽろぽろ泣いている妹姫のことを大切に大切に想う気持ちを、花梨にだけ言い置いて。 「ねぇ、紫姫・・・今夜は一緒に眠ろうよ。しゃべりつかれて眠ってしまうまで、たくさんたくさん話をしようよ」 紫姫が大好きなお花のこと。 泉水さんが届けてくれたお菓子のこと。 星の一族のこと。 この京(みやこ)のこと―――やさしかったお母様とお父様のこと。 それから―――今は側を離れている大切なお兄さんのこと。 「一緒に待とうよ、深苑くんのこと。信じて。一緒に祈って。一緒に・・・待とう・・・?」 「神子様・・・」 「泣いてもいいよ。今は、いっぱい泣いたらいいよ・・・。きっとね、深苑くんもうまく説明できないんだよ。言葉を、探しているのかもしれない。紫姫の心に届く言葉を、自分が信じる道を進みながら一生懸命探しているんじゃないかな・・・」 信じて祈ること、信じて待つことを教えてくれた小さなお姫様のために。 誰も信じてくれない中で。そして、自分自身でさえ信じられないときに。この小さなお姫様がくれる労わりの心は、花梨にとって太陽だったのだから。 「だから、今夜は一緒にいよう? 明日の晩も、明後日の晩も・・・一緒にいよう?」 手を繋いでおしゃべりしよう。 小さな謌(うた)を奏でるように。 この長い夜が明けるまで。 あなたの涙がかわくまで。 笑って、おはようって言えるまで。 Fin. ( Eine Kleine Nahat Music ) * 花梨のことを最初から神子だと知っていたのは紫姫(と、アクラムさま)だけなのよね。 信じる信じない以前に、「知っている」っていうところがとても運命的なの。 お題SS(2009/08/07 up)より。再掲にあたってタイトル変更・一部加筆修正いたしました。 お題「眠れぬ夜は貴方を想い」に着想を得たもの。 お題は、お題サイト【恋花】さん(http://www.ccn.aitai.ne.jp/~w-seven/lf.index.html)の【夜に溶けゆく10の言葉たち】より。 |