青 に 染 ま る




 サザキはきっと、海と空だけがあればそれで十分に生きていけると思っている。

 どこまでもひらけた二色の青の世界の真ん中で、サザキは決して孤独に落ちたりはしない。
 翼をもっているひとは、もっていないひとと、そこのところが大いに違うのだと千尋は感心する。
 自分ならば―――と、千尋は空と海とを瞳にうつす。
 自分ならば、いつも、その広さに身を竦ませてしまう。
 この身の小ささに、空の広さに、惧れを大きく抱いてしまう。
 けれどサザキは、どこまでも広く続く世界に胸を躍らせる。きらきらと子供みたいに瞳を輝かせて。

 「―――どうだ、姫さん。空ってのは、いいもんだろう・・・!?」

 風と一緒に届くサザキの声。
 千尋の身をしっかりと抱く、強くて優しい腕。
 けっして風に負けない翼。

 空の青も、海の碧も、そこに踊る光も、その翼をかすめてゆく風も―――ぜんぶがサザキのものみたいに思えた。
 国の境界とか、近く遠く起こった争いごととか、朧にしか覚えていない母さまの顔とか。
 そんなことをぜんぶぜんぶ飛び越えて。
 ただそこにあるのは、空と海。
 サザキはまるで、空と海の王様だ。

 「サザキ―――」
 「ん?」

 だいすき、と言ってみたのに、それはこの空をめぐる風にまぎれてしまって。
 空の青にとけてしまって。
 遠く輝く水面の碧からも反ってこなくて。
 ただ、身体のなかで自分の心音ばかりが木霊すようで。

 ―――青に染まった小さな言葉は、いつか貴方に届く?

 遠く遠く、はるかに遠く。
 夕日が沈む場所よりもっとむこう。
 月が現れる場所よりももっととおく。

 ―――ねぇ、わたしをつれていって?


  Fin.

(空と海の広さを知っているあなたの翼に恋をする )

*



 blogに載せていたもの(2010/07/10up)をこちらに再掲するににあたって一部加筆修正いたしました。