真 夜 中 の 太 陽




 大陸よりももっともっと遠く。
 北のはて、この世の尽きるところに、真夜中でも太陽のしずまない常陽の国があるという。

 それを、白夜だとすぐに気づいたのは那岐と風早だったけれど、瞳を輝かせて海賊大将の話に聞き入っている千尋と年端もゆかない狗奴の子のために黙っている。
 まったく風早が一般常識を教えないからこうなるんだ、と、素直でお人よしに育った千尋のことが少しばかり心配になる。今にはじまったことではないけれど。
 これじゃぁ、簡単に人に謀られる。
 ここはあちらのように暢気に暮らせるようなところではないし、そもそも、千尋は目下、反乱軍を率いる亡国の皇女なのだ。

 そんな那岐の心配を他所に、当の千尋はというと、その伝説の常陽の国のありもしないお宝話にそれこそ身を乗り出すようにして引き込まれていて、もともといい加減で調子のいい海賊大将のしゃべりはますます滑らかに大風呂敷になっていく。

 狗奴の子のことはさておき、千尋の楽しみを全力で守るのが風早だ。
 すべての元凶と思われる風早は、にこにこととぼけた笑顔で千尋に相槌をうってやったり脱線しかけるサザキになんとなく話の先をうながしてやったりと、まったく千尋のために余念がない。
 あれもたいがい千尋しか見えていない。
 風早の世界の中心は、いつも千尋だ。

 「ね、那岐、すごいね・・・! 空が虹色にゆらめくこともあるんだって!」

 それって、明らかにオーロラのことだろって、出かかった言葉を飲み込む。
 千尋はどこまでボケてるんだか。
 白夜とオーロラの国はたしかカバっぽい妖精の何とかトロールが棲んでいる国だ。
 千尋が大好きだって言うから夏休みに風早が遊園地のキャラクターショウに連れてってくれて、もちろん、那岐は面倒くさいって言って嫌がったけれど無理矢理ひっぱって連れて行かれた、暑い盛りだったというのに。
 ついでに言うと、カバと離れがたくなって泣いてしまった千尋のために風早がどんなこずるい手を使ったのか、そのカバの着ぐるみを貰ってきたのだ。千尋の笑顔見たさに風早は迷わず着ぐるみを着て、ほら、これならずっと一緒ですよ、なんて言い出して、あろうことかカバ(を着た風早)を真ん中に3人手を繋いで帰る羽目になった。暑苦しい上に恥ずかしいしばかばかしい。
 この2人とはもともと他人なのにどうしていつも他人のふりができない状況にまで追い込まれるのだろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとどころかかなり嫌な思い出だ。

 「ふーん、それじゃぁ、カバみたいな妖精がうようよいる谷でもあるんじゃないの?」

 千尋のボケ具合に呆れて嫌味を言ったつもりだった。
 だけど―――

 「やだ、那岐! こっちにムーミンがいるわけないじゃないっ」
 「ははは、懐かしいな、那岐もムーミン大好きでしたよねっ!」

 脳天気に大笑いする千尋と、頭に花が咲いているとしか思えない風早の言いザマに、なんだかむしょうにイライラが募った。

  Fin.

 (L・O・V・E 葦原家!)

*



 那岐少年の苦労性なポジションが好き。
 風早は無駄に背が高いから、ムーミン着ても足がいっぱいはみ出ただろうね、、、、、、、、、、、、、風早先生にこんなことさせてすみませ・・・。

 お題SS(2009/08/11 up)より。再掲にあたって一部加筆修正いたしました。  お題「真夜中の太陽」は、お題サイト【恋花】さん(http://www.ccn.aitai.ne.jp/~w-seven/lf.index.html)の【夜に溶けゆく10の言葉たち】より。