た と え ば 、 そ の 窓 辺




 そこの陽の光の中で何気なく立つ千尋の髪を、綺麗だとおもったのはきっと僕だけじゃない。

 はっと奪われたいくつもの視線と、小さなため息。
 千尋はどれひとつ気付かないのに、僕はどれも気づいてしまうのがなんとも癪で。
 そんなことを思う自分がまた腹立たしい。

 だけどここは、あんまりにも凪いで穏やかな場所だから、時折これが永遠に続くもののように勘違いしてしまう。

 たとえば、その窓辺。
 千尋をとらえる陽光は、僕の席までは届かない。
 だからこそ、陽だまりにいる千尋が、ここからよくみえる。
 いろんなことを忘れたまま陽だまりの中にいる千尋と、酔狂なことに千尋を守りたいと思っている僕と。
 光と影の関係性については、どうやら世界をたがえても変わらぬものらしい。
 やっかいなことに、僕には呪いがかけられている。
 好きになったら不幸にする―――ばかばかしいけれど何よりも信仰しているこの呪い。
 とうに自覚している気持ちがあるからこそ、僕たちにはこの距離が必要だ。
 少なくとも、僕には。
 僕が、何一つ気付かないふりを続けるためにも。千尋に、何も覚らせないためにも。

 窓辺の陽だまりと陽光の届かぬこの席と。
 うまれたときからつづく、光と影と。

 僕たちには、きっとこの距離が必要なんだ。
 僕たちは、この距離でいい。
 僕たちは、この距離がいい。
 
Fin.

 (一緒に暮らしながらこの距離を保たなきゃならないのって、けっこうしんどいんだ) 
*



  ・・・とか思いながら、雨の日に一本しかない傘に一緒に入って、傘にかくれてチューぐらいやらかす那岐を希望します。
 
 ブログに乗せていたもの(2009/10/28付)。再掲にあたって一部加筆修正いたしました。