いつも。 きれいな水をたたえたくろい森に生まれた。 つよすぎる陽の光は、とおくから眺めるだけ。 夜のすきとおる闇の中でせいれい達の声をきき、まじないうたをうたい―――いつも蒼い瞳をさがしていた。 夜を幾度も超え、まばゆい陽の光を迎え。 けれども蒼い瞳には逢えず。 逢えないまま、いつしかせいれい達の声は遠のいていった。 気づけばうたう声はかすれ、うたは力を失い、歩くことができなくなって―――しずかにくろい森のやわらかな土に横たわった。 もうなにもみえない目に映るのは、ぼんやりと続く蒼い蒼い夢ばかり。 蒼い蒼い夢の中、やがてふつりと意識は途切れて。 そうしてまた。 気づくとくろい森にうまれていた。 そうやって、何度も、何度も、何度も―――くろい森に生まれ、蒼い瞳をさがし、くろい森に還った。 ただの一度も、いとおしい蒼に出会えぬまま。 ◇ ◇ 今度は、十八番目の土蜘蛛としてくろい森にうまれ、土蜘蛛の仲間から十八(とおや)と呼ばれ―――やはり蒼い瞳をさがしていた。 「ね、遠夜、もう一度歌って?」 十八(とおや)に【遠夜】という名前をくれたひとは、あかるい陽の光のなかで暮らすうつくしいひとで、その瞳はこの夜のすきとおる闇の中で、とても。とても 『 ―――・・・ 』 とてもきれいなきれいな蒼で。 あまりにきれいだから――― 『 ―――・・・ 』 「・・・とお・・や・・・?」 『 ―――・・・ 』 「どおしたの・・・・? とおや、泣いているわ―――」 『吾妹、くるしい―――・・・』 どうしてだか。 このきれいな蒼がしずかに消えてゆく様を。 それと一緒にこのこころが灼き切ればらばらになってゆく痛みと苦しみを。 果てしない絶望と強い嘆きを。 どうしてだかずっとずっと前から知っているものだから。 『 吾妹、もっと瞳をみせて 』 陽の光のもとでくらすうつくしいひと。 そのひとの頬に手を添えて。 こちらを見上げる蒼い瞳に自分が映っているというしあわせに、泣きたくなる。なぜだかとてもくるしくてせつなくて。 『 吾妹、俺はうたうことしかできない――― 』 土蜘蛛は、うたうことしかできない。 そうだ。 もうずっとまえから、うたうことしかできなかった。 この蒼い光がきえてゆくときも。 神々を、人々を、己を、ただのろうことしかできなかった。 「ひと」の言葉でどういうふうに伝えるのか、知らない。 ながくてながくてさびしい闇の中で、やっと見つけたいとしい蒼。 しらないのにしっている、この身にきざみつけられた「やくそく」を――― この、きれいなきれいな蒼を――― 「!」 いまはただ、この腕にとじこめて、だきしめて。 そのひとの身が現にあることを確かめる。 この楽土の神々よ。 この森に棲む精霊たちよ。 このいとしい蒼をつれてゆかないで。 「とお・・や・・・?」 『 吾妹、もう・・・俺をひとりにしないで 』 Fin. ( 幾度も巡り、きみだけを探していた ) * 千尋に出会う前にも、長い長い間、遠夜は千尋を探していたんじゃないのかなぁ。 月読の君は、深い絶望の中で自分自身に呪をかけた、、、、なんてことはないのかな。 お題SS(2009/7/14 up)より。再掲にあたって一部加筆修正いたしました。 お題「蒼い落日」は、お題サイト【恋花】さん(http://www.ccn.aitai.ne.jp/~w-seven/lf.index.html)の【夜に溶けゆく10の言葉たち】より。 |