広げられ解かれた衣は、辛うじて身に纏わりついているけれど、もうその意味を為さない。 露わにされているのは、薄い肩、細い腕、柔らかな乳房、白い脚。 龍の斎姫があられもない姿をさらし、頼忠の熱い肌の下でその身を震わせている。 ささめくように耳朶を喰めば、ぁっっと声にならない吐息をこぼし、本能的に逃れようと、細い腕が頼忠の胸板を押した。 その手首をやんわりと掴み、けれど、手荒に抑えつける。 堅く閉じようとする膝も無理やり割り、脚を大きく開かせた。 いやいやともがくように首を横に振って、眦(まなじり)から涙が零れるけれど、決して悲鳴は挙げない。怖ろしいはずなのに、唇をきつく噛んで声を挙げることを堪えている。 眦に唇を寄せて、なだめるように涙をぬぐってやると、僅かに力が抜ける。 初めての行為は、犯される女には辛いだけだ。 慈しみながらであっても辛い行為。 できるだけ優しく手折ることを思いながら、けれど一方で、頼忠の中では酷く残忍な衝動が大きくなる。 その衝動を持て余し、頼忠は開かせた脚を無理矢理高く持ち上げる。 驚いて小さく悲鳴が挙った。 それに構わず、頼忠は、腿の内側に口吻け、強くそこを吸う。 花梨はぴくりと背を撓らせ、白い頤をくっと反らし吐息を漏らした。 「っぁ…っぅ」 そのまま唇を伝わせ、時に柔肌に痕をつける頼忠の髪に、花梨の細い指が絡む。 「っやっ……」 止めたいのだ。 これから躰のどこをなぶられるのか、本能で解っているから。 「やだっ……ぁぁ」 咄嗟に閉じようとする脚。 髪にさしこまれ絡んだ指。 そのどれもが、ささやかな抵抗でしかないのに。 それは無駄な抵抗だと告げる代わりに、じりじりと腿の付け根まで唇を移してゆき、そこでふっと唇を離す。 あられもなく曝された場所に目を遣ると、そこが濡れているのが夜目にもわかった。 花梨が消え入るように息を吐く度に、その襞もはしたなく震える。 その様子に薄く哂い、頼忠は、濡れそぼった場所に舌の先をはわせた。 「ひっぁァァ――ッ」 花梨が一際高く啼き、細い指がくしゃりと頼忠の髪を乱た。 本当はすぐにでもこのひとを壊してしまいたかったのだけれど、それをギリギリのところで思い止まる。 わざと音をたてながら、とろりと滴ってくるものを啜り、襞に隠されていた小さな突起を甘噛みし、割れ目にぐっと舌を差し入れる。 いやらしい音をたてながら執拗にそこを攻め、絶え間なく愛撫を与える。 「ぁぁぁッ……やッァァァ―――!」 悶え、身を捩る花梨を、未知の感覚が苛んでいた。 耳に纏わりつく恥ずかしい水音、自分のものではないようなはしたない女の声。 躰を開きこの身を喰らおうとする男の息遣い。 膝を開かせ抑え付けている大きな手、強い腕、その熱い体温。 きつく目を閉じたまま、花梨は、それらの刺激に犯される。 直接触れる肌から、耳に纏わりつく音から、犯される。 そうして、本当に身を食いつくされるような恐怖とともに押し寄せるのは、躰の奥の疼きが増してじわじわと熱に浸蝕される感覚。 考えることができなくなり、躰だけの生き物にされる感覚。 「こわ…い……」 「―――…」 「よりただ…さんが…こわ…い…」 乱れた息のあいだ、花梨の口元から零れた言葉。 男の動きが、ふっと止まる。 男は身を起こし、髪に差し込まれていた花梨の両手をやんわりと解き、床(とこ)に押し付ける。 掌が合わせられ、無骨な指が花梨の細い指に絡められる。 「―――?」 花梨は、そむけていた顔をもどし、怖ろしくて閉じていた瞼をゆっくりと開ける。 見上げると涙で滲んだ視界の先で、切れ長の紫苑の目とぶつかった。 「よりただ…さ…?」 自分をじっと見下ろす紫苑の目を見詰め返し名を呼ぶと、男の表情が苦しそうにゆがんだ。 絡めた指には力が籠められる。 それから、花梨に覆いかぶさるようにゆっくりと熱い肌が寄せられ、耳元で囁かれた。 搾り出すように、苦しく掠れた声で。 「…ッそれでも―――」 「?」 「それでも…私は、貴女が欲しい」 「!!」 あとには。 もっと、ずっと激しい嵐が待っていた。 指で慣らされることもなく宛がわれた大きなもの。 その存在に怯えたときには、その硬いものに、もう入り口は押し広げられていたのかもしれない。 「いッぁッ……ッァァア―――…ッぅんんん……!」 初めて貫かれ、引裂かれる痛みに耐えられず声を挙げたけれど、すぐにその口を塞がれた。 深く口吻けられたのだ。 なだめるように舌を絡められ、口内がやんわりとかき回される。 痛みで躰は強張り、苦しくて息が出来ない。 花梨の口の端から、どちらのものかわからない唾液が零れ伝い落ちた。 最初の痛みが退いてゆくのを見計らって、頼忠は、さらに自身を押し進めていく。 花梨の後頭部を押さえ、深く口吻たまま。 できるだけ、ゆっくりゆっくりと。 それでも痛みと圧迫感に震える躰を、あやすように抱き締める。 ひたと合わされた肌。 しっとりと汗ばんだ肌理(きめ)の細かい肌は、頼忠の腕に胸板に吸いつくように馴染んだ。 深く侵した胎内は狭く、侵入したものをきつく締め付け押し返そうとする。 そうでありながら、中の熱く濡れた襞はひくひくとそれに絡み付いて、包みこみ引き止めようとする。 (―――ずっとこうしたかった) 柔(やわ)い躰を貫き、甘やかな口内を貪りながら、頼忠は恍惚と思った。 このひとを腕の中に閉じ込めて、互いに肌を合わせ、躰を繋げて、溶け合うように抱き締めたかったのだ、と。 手を伸ばせば簡単に触れられる位置に控えながら、そんな浅ましいことを思っていた。 すべてを埋め込んでからそっと唇を離してやると、花梨が、肺に空気をとりこもうと一心に乱れた呼吸を繰り返した。 薄い肩と、柔らかな胸が、大きく上下する。 「ずっと貴女を―――…壊してしまいたかった」 息が整わぬ躰を柔く抱きながら、頼忠は、吐息のようにささめく。 「主である貴女を、こうして閉じ込めて、私だけのものにして、壊してしまいたかった―――」 「……ずるい…です…」 「―――」 「わたしばっかり好きなんだと…そう思っていました。頼忠さんには迷惑なだけなんだろうって…」 組み敷いて、躰を繋げ、肌を合わせたひと。 たったいま、自分に手折られ犯されているひと。 その瞳からほろりと涙が零れた。 つづけてまた、ほろりほろりと雫が零れ落ちる。 映す光などない闇の中で、その光景だけが別の空間の出来事のように静かで、ゆるやかで、酷く美しかった。 「大人って…ずるい…です。頼忠さん…そういうの巧く隠せる大人なんだもの……やっぱりずるい…よ…」 ずっと抵抗していたはずの細い腕が、頼忠の頚にまわされる。 そのまま引き寄せられ、こつんと少女の額が合わせられた。 少し躊躇ったあと、花梨のほうから触れるだけの口吻け。 頼忠の目元に、鼻先に、頬に、それから唇に。 「神子…殿?」 「怖いけど…嫌いになんてなれません…」 「―――」 「もうとっくに―――…心は貴方だけに囚われて閉じ込められていたのだから」 「!」 あとのことを、頼忠は、もうよく覚えていない。 躰を繋げたまま告げられた言葉に、僅かに残っていた理性も良心も、簡単に焼き切れてしまったのだから。 そうして、手加減などできずに夢中で抱いてしまったのだ。 壊してしまうとか殺してしまうとか、そんなことを何も考えられず、乱れ咲き零れるたおやかな肌をかき抱いて何度も抱いてしまった。 ただ、最後に満たされたとき抗いようのない眠気に襲われたことはよく覚えている。 不意に身体の力が抜けて、ぐらりと床(とこ)に倒れ沈み込んだ―――ような気がする。 自分の名を何度も呼ぶ声を、近く遠く聴いたような気がする。 *次頁* |